理想的エロゲ論・キャラクタ編

 理想のエロゲを構築するにあたって、キャラクタの設定というのは非常に重要なウェイトを占める。どのようなキャラクタにするのか。人数は。そのキャラクタのターゲットはどのようなものにするのか…それらについて考えることは非常に有意義である。そして、これらの基準を設定する上で、人気のある既存のエロゲを参考にすることには読者も異論がなかろう。しかしその前に、エロゲにはどのような種類があるのかについて紹介しておきたい。
 エロゲには、大別して3つの種類がある。1つは彼女たちの流儀に代表される、ヒロイン一択型である。舞台、ストーリー、キャラクタの全てをたった一人のヒロインのために設定した上で、他のルートを選んだ際に生じる様々な不具合を黙殺し、そのヒロインのルートを昇華させる型である。ヒロイン一択型は、メインとなるヒロインが消費者の好みに合致している場合、すさまじい破壊力を誇る。反面、そうでない場合はゴミクズとして扱われてしまうこともある諸刃の刃である。このような博打の要素を持つ型は、理想のエロゲを作るにあたってふさわしくないであろう。
 2つ目はかにしの、WLOに代表される、少数ヒロイン集中型である。他のヒロインのルートは少々お粗末だが、その分2〜3人、あるいはそれ以上の過半数に満たない(場合によっては超えることもある)ヒロインのシナリオが秀逸である型である。これによって、ヒロイン一択型では実現できなかった消費者のニーズへの対応が可能になる。しかし消費者はメインのキャラクタ全てに平等に興味があるわけではなく、むしろいくつかのメインのキャラクタに消費者の好みが分散する形を取るため、「そのキャラクタに飽き易い」という欠点がある。
 そして最後の3つ目は、それ散る月姫に代表される全キャラ魅力型である。この型はユーザーのあらゆる要望に答え得る(もちろんそれは可能性の問題でしかないが)。だが言うまでもなく、全てのキャラが魅力的であるがゆえに、「ゲームとしてのキャラの魅力の最大値」が大幅に減退してしまうという欠点がある。
 これら3つの種類を概観したとき、現状の型をそのまま利用したのでは、理想的なエロゲなど望むべくもないと君たちは思うかもしれない。では理想的なエロゲの型など存在しないのだろうか。この謎を解く鍵は、意外にもエロゲ業界以外の分野から手に入れることが出来る。
 バンダイナムコゲームスが発売しているアイドルマスターは、多数のファンと長期的な人気によりニコニコ動画(暗黒微笑)のランキングにも度々顔を出す素材である。このアイドルマスターはエロゲでいうところの「キャラクタ要素」の魅力をメインに据えている。アイドルマスターから理想的なエロゲのキャラクタの種類を見出すことは出来ないだろうか。それを考えたときに注目すべき事実がある。それは「アイドルマスターには10人ものキャラクタがいるにもかかわらず、その人気はほぼ均等である」ということである。これを3つ目の全キャラ魅力型と同じだと考えることも可能であるが、しかし私のIM@SinVIPへの長期にわたる潜伏研究によれば、アイドルマスターのキャラクタ全てを同じように好んでいる消費者は殆どいない。明らかに3つ目の全キャラ魅力型とは趣を異にするのである。私が考えるに、いくつかの「好きなキャラクタの纏まり」の集合が形成されているのではないだろうか。この仮定は、アイマスSPに起こった現象から説明することができるかもしれない。3人*3本で合計9人分、という曲芸商法にも似たこの販売方法で、「3本全部買ってしまう」消費者が非常に多かったのである。中には「9人全てのアイドルをプロデュースしなければならない」という紳士的な態度から全ソフトを買った消費者もいたことだろう。しかし、ナムコの意図は本当にそうであったのだろうか?全キャラプロデュースを目的とした人間を対象に「ばらばらに売る」ことにしたのであれば、それこそ1キャラ1本にすればよかったはずである。ゆえにこう考えるのが妥当ではないだろうか。ナムコは入念な市場調査により、「好きなキャラクタの纏まり」の傾向を調べ、その纏まりがバラバラになるように複数のソフトそれぞれにキャラクタを配置したのだ、と。その結果3*3という構図が適切であるとナムコは判断したのである。そしてその判断は成功を収めたといえるだろう。
 このナムコアイドルマスター商法は、キャラクタ設定における一種の完成型とみなすことが出来る。つまり、全てのキャラクタを魅力的にしつつ、それでいて消費者の興味が全てのキャラクタに行き渡るようにするのではなく、いくつかの纏まり(これをアルビン・トフラーが企業の中に存在する一時的なプロジェクトチームの纏まりをマトリクスと名づけたのになぞり、マトリクスと呼ぶ)を形成するように設定するのである。このためには入念な市場調査が必要である。マトリクスは大きすぎても小さすぎてもいけないが、必ずしも同一の大きさである必要はない。さらに全ての個人にとってマトリクスが同一である必要もない。A・B・Cのマトリクスを持つ人がいれば、B・D・Eのマトリクスを持つ人がいても良い。要は飽きない程度に、それでいて分散されないようなマトリクスが形成されれば良いのである。
 簡単な例をあげれば、涼宮ハルヒの憂鬱は、ハルヒ派、みくる派、長門派の3つが主流である。さらにこれらは同一の規模ではなく、長門派がもっとも勢力があるように思われる。さらに、これら3つのほかにも、きみどり(?)、未来みくる、阪中など、小さなグループもある。この状況に、さらに長門派が好むキャラクタ、みくる派が好むキャラクタ…等がそれぞれ追加され、一定のマトリクスを形成したとすれば、涼宮ハルヒブームはもっと長続きしたであろう。


ご飯炊けた。